素晴らしいのに消化不良の映画『オーケストラ!』感想


こんなことを言うのは野暮だとわかっているんだけど、言わずにはいられない。

30年もブランクがあり、リハーサルなしで、耳の肥えた大観衆を湧かせるような完璧な演奏をするのは不可能。ありえない。いくら大天才の逸材が集まった楽団だったとしてもさすがに無理がある。「いいや、奇跡が起きたんだ」と自分を納得させようとしたけど、どうしてもダメだった。いや、言わんとすることはわかるんだけどさ……。「チューニングはいつしたんだよぉ?!」「初めて使う楽器でそんな吹けるぅ?!」「てか練習しろよぉ!!!」などなどなど。演奏はひどいのに魂を揺さぶられたみたいな演出ならまだ納得できただろうか……。
 
天才バイオリニストの娘が天才というのも……まぁなくはないでしょう。でも、亡命先で超売れっ子バイオリニストとして成功してるってすごすぎない? 育ての親のギレーヌが実はすごい音楽教育家だったとか? 才能大爆発? えっ何この映画天才しか出てこないの?
 
歴史の絡んだストーリーといい社会主義と資本主義の対比といい題材はすごくいいと思ったから本当にこの引っかかりがもったいない。「ねぇいつ音出しするの?ねぇってば」みたいな気持ちがなければ、もうちょっと素直に入り込めたと思う。

いや、でもやっぱり、キャラクターや関係性をもうちょっと丁寧に描いてほしかったかなという気持ちもあるし、音楽以外の面でも物足りなさはあったかも。

あと、マエストロのアルコール依存症が心配で仕方なかったから、酒を飲み出してからはもうヒヤヒヤしてキツかった(が、奇跡的に本番は大丈夫だったという設定?)。それと、指揮者の仕事は本番でタクトを上手に振ることではない。過去に執着する狂気の主人公というわけでもないし、全体のバランスで見ると弱い。

よかったのは、髭のチェリスト・サーシャ。演じたのはドミトリー・ナザロフさんというロシアの役者さん? 情報が少ない。

言葉を求めても
言葉は裏切る 汚い
今も美しいは音楽だけ

このセリフが印象的で、グッときた。ロシア人がフランス語で語る、そのカタコトの感じがまたいいんだと思う。

ドタバタコメディなパートは楽しかったけど、それはただ自分が時代的文化的背景を知らないからってだけなんじゃないかとも思う。

決して悪い映画ではないんだけど、なーんかモヤモヤが残る作品。